探偵・推理小説にも大きな影響を与えた、フランソワ・ヴィドックとは.....。

 「ヴィドック」。この名前に聞き覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。それは数年前に公開された映画のタイトルにもなっているからです。
 この映画は実在した探偵のヴィドックを登場人物の一人とし、彼が関わっていた事件の謎を解いていくという設定のサスペンス映画でヴィドックが何者かに殺害されるところから物語が始まります。今回はこのフランソワ・ヴィドックについてみていきたいと思います。
 1775年フランスの小さな街アラスに生まれ、15歳まで何不自由なく生活していたヴィドック。彼は16歳のとき歩兵部隊に入隊し、5年間を軍隊で過ごしますが、その生活に嫌気がさし、除隊することを決意します。しかしその際に除隊証明書を受け取らなかったために脱走兵として逮捕されてしまうのです。さらに悲惨なことに入獄中に贋造紙幣犯の一味であるという濡れ衣を着せられ、ブレストにある徒刑場で重労働刑に処せられてしまいます。その徒刑場で彼は多くの重犯罪者と知り合い、暗黒社会の情報や犯罪の手口などを詳細に知るようになります。そして数年後には脱獄と変装のプロと呼ばれるようになっていたようです。ブレストの徒刑場に送られてから10年間は脱獄し、また入獄させられるのを繰り返します。  
 脱獄と変装のプロと呼ばれ、あらゆる闇の情報と犯罪手口を知り尽くした男。刑務所を出た後はそのまま暗黒社会に染まっていくのではないかと思うところですが、出獄後の人生が彼の名を後世まで残すこととなる理由なのです。
 彼は出獄後、徒刑場で得た犯罪の情報を売るパリ警察の密偵となるのです。密告とスパイを常套手段とし、犯罪すれすれの摘発方法を用いて彼は数々の事件を解決し手柄を立て地位と名誉を手に入れていきます。そしてついには国家警察パリ地区犯罪捜査局を創設し初代局長となるのです。彼は入手した犯罪者と犯罪手口を分類して膨大な資料を作り、各地の警察に配備するという科学的捜査方法を確立したともいわれています。このヴィドックの創設した捜査局はパリ警視庁の前身にあたります。後に捜査局を退職し、1833年に世界初の民間の私立探偵事務所を設立します。その探偵事務所は約3000人もの利用者がいたと記録されているそうです。
 またヴィドックは本も執筆しており、著書「ヴィドック回想録」は彼の数奇な半生とさまざまな犯罪記録を記しています。この著書は後に探偵小説を創始したエドガー・アラン・ポーや推理小説家コナン・ドイルなどに大きな影響を与えたそうです。あの有名なユゴーの「レ・ミゼラブル」に登場するジャン・ヴァルジャンも彼から着想されたといわれています。
 
 重犯罪者扱いとなってもそこから必死で這い上がり、現代まで名を残す伝説の人物となったフランソワ・ヴィドック。人生はどこでどう転ぶか本当にわからないものです。しかしそれを良い方向に導くか否かは自分次第なのです。

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